165. 明晰な論理によって 

■例文 トルストイ 「アンナ・カレーニナ」 
 彼は好んでシェークスピア、ラファエル、ベートーベンについて論じ、詩や音楽の新しい流派の意義などについて語ったが、それらは彼の頭の中できわめて明晰な論理によって、きちんと分類されているのであった
 彼は好んでシェークスピア、ラファエル、ベートーベンについて論じ、詩や音楽の新しい流派の意義などについて語ったが、それらは彼の頭の中できわめて卓越した力によって、きちんと分類されているのであった

◇チェーンにねっ転がって、思索する男性
■違い
 「明晰な論理」という言葉は、後に出てくる「分類」という言葉と、連想でくっつきやすいので、なるほど、そういう構造ねって思う。
 ぼくが興味をもったのは、「頭の中で、分類されていた」と単純に言うのではなくて、「明晰な論理によって」という言葉を付け加えている点である。これは、頭の中にある力を認めて、その力によって作用された、という構造をとる。すなわち、外部から受け取った知識や印象に対して、変形を加えるさいに、もっとも影響する力を記述している。そうすることで、「力」という因によって、果であるところの「知識・印象」に帰結したというふうに、因果関係がスッキリして、これを見るにつけ快感が来る。
 このやり方を延長すれば、「単純な感情によって」とか、「暗い信仰によって」とか、「冷たい懐疑によって」とか、いろんな「力」の記述ができる。ぼくが特に使えると思うのは、「外部から〜の印象を受けて、彼はそれを冷たい懐疑によって、〜というふうに曲解した」というふうに、「外部から受けた純粋な印象」と「自分の内部の最終的な印象」とをつなぐところで、今回のやり方を使えば、その人の考え方の傾向や性質がわかるので、いいと思った。