293. 旧態を改めざる 

■例文 夏目漱石 「それから」
 依然として旧態を改めざる三年前の初心(うぶ)と見ているらしい
 依然として旧態を改めない三年前の初心(うぶ)と見ているらしい

◇軍隊の訓練
■違い
 「旧態を改めざる」のほうが、手厳しい言い方。
 「旧態を改めざる」のような昔言葉が、文章のなかにうまく入り込んでいると、なぜかグッと胸が昂ぶってしまって、この現象がよくわからない。使い分けの基準がわからない。

292. 生活は強められ 

■例文 トーマス・マン 「魔の山
 私たちはなにごともあからさまにはっきりと呼ばなくてはなりません。それによって、私たちの生活は強められ、高められるのですから
 私たちはなにごともあからさまにはっきりと呼ばなくてはなりません。それによって、私たちの人生は強められ、高められるのですから

◇洪水からベッドの上に避難した人と犬
■違い
 「生活は強められ」は、泥臭くて、力強い。
 「人生は強められ」は、神秘的な強調がある。

291. 以上に立って 

■例文 夏目漱石 「それから」
 要するに文芸にはまるで無頓着でかつ驚くべき無識であるが、尊敬と軽蔑以上に立って平気で聞くんだから、代助も返事がし易い
 要するに文芸にはまるで無頓着でかつ驚くべき無識であるが、尊敬と軽蔑を超越したところで平気で聞くんだから、代助も返事がし易い

◇悟りを開いている顔
■違い
 「以上に立って」のほうが、さっぱりしてて、大げさじゃない

290. 流俗 

■例文 夏目漱石 「それから」
 そりゃ不見識な青年が、流俗の諺に降参して、好加減な事を云っていた自分の持説だ。もう、とっくに撤回しちまった
 そりゃ不見識な青年が、平凡な世間の諺に降参して、好加減な事を云っていた自分の持説だ。もう、とっくに撤回しちまった

◇冷蔵庫に頭をいれる酔っ払い
■違い
 「流俗」のほうが、軽蔑の感じがつよい。

289. 自己将来の希望 

■例文 夏目漱石 「それから」 
 平岡からは断えず音便があった。安着の端書、向うで世帯を持った報知、それが済むと、支店勤務の模様、自己将来の希望、色々あった
 平岡からは断えず音便があった。安着の端書、向うで世帯を持った報知、それが済むと、支店勤務の模様、自分の将来の希望、色々あった

◇女の子のスーパーウーマン
■違い
 「自己将来の希望」のほうが、確固とした感じ。

288. 時代の欠陥 

■例文 トーマス・マン 「魔の山
 私たちは、さっきほのめかしておいた問題、時代の欠陥による個人生活の損傷がその人間の有機体にまでおよぶことがありうるという問題に、ここでまた戻るのである
 私たちは、さっきほのめかしておいた問題、社会の欠陥による個人生活の損傷がその人間の有機体にまでおよぶことがありうるという問題に、ここでまた戻るのである

ギリシャのデモで燃える家
■違い
 「時代の欠陥」のほうが、根底的

287. きびしい趣味 

■例文 トーマス・マン 「魔の山
 盤は前世紀の初めのきびしい趣味で形づくられていて、簡素な高貴な姿をした美しい盤であった
 盤は前世紀の初めの洗練された美的感情で形づくられていて、簡素な高貴な姿をした美しい盤であった

◇夜の簡素な城
■違い
 「きびしい趣味」は、眉間にしわをよせながらつくりだしたような、鍛錬してる感じ。
 「洗練された美的感情」は、時の流れで自然に、精神が澄み渡ってる感じ。